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父の足跡を訪ねて[後編]

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「店がない」
話が聞けるような老舗はなく予想以上に場所の見当がつかない。ほとんど民家。古い家や電柱にはたまに残っているとされる昔の住所表示も見つけられない。
古そうな家を見つけては立ち止まって観察。そばを人が通るたびにスマホで地図を確認しているふりをしたり、「ほほー、これがあれか…」などとわざとらしい独り言をつぶやく。見るからに不審者である。

 

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区民事務所には現住所と過去の住所を照らし合わせられる地図があるのかも、でも今日は休みかな…などと考えながらあてどなく歩き回る。いつの間にかさきほどの松庵文庫の前に戻ってきたりしている。けれど父がこの道を歩いていたのかと思いつつの探訪は楽しかった。

 

 

細い道でまた古く立派な家を見つけた。

表札を見ると……となりに松庵北町の旧町名表示が残っている!

 
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「松庵北町○△×」
スマホを開いて父の図書室入館証を見る。

 

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間違いない。番地が一致している。

「まじか……」

しばし立ち尽くしてしまった。

 

この家が下宿先?
ガチャというドアの音。そんなに間をおかずに家主さんらしき方がこれまたタイミングよく玄関先に出てきたのだ。目的を持った時の自分の行動力に驚かされる。躊躇なく話しかけていた。

 

怪しすぎる来訪者の質問によく答えていただいたと思う。結論としてはここではない、とのことだった。

家は古いもので建て替えたりもしていない。私は後にここを買ったが、以前に家が下宿として使われていたことはないはずだと。
そうか…住所は一致してるんだけどな…まぁ、そんなにうまくいかないわなと、その家を離れた。
ふと見ると、すぐそばにかなり古い空き家があった。建物が築何年かを判断するのは難しい。純和風の木造ならばいざ知らず、モルタルなどの外壁で壁を塗り直したりリフォームをしてあれば素人目にはさっぱりわからない。7、80年ぐらい経っていると言われればそう見える。つまり年代的には合っている気がする家だった。

 

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何より、この角の窓の配置が気になった。父の写真の窓の位置と一致するのだ。となりの窓から察するに中の部屋の広さもこのぐらいではないだろうか。

しかし空き家で家主もいないので確認のしようがない。窓の柵の違いはあるが、後から取り付けようと思えば取り付けられるし…わからない。
いろいろ考えながらとぼとぼと歩いていたら西荻窪駅に戻っていた。場所はわかったわけだし、このまま帰るかな、とも思ったがどうもスッキリしない。

下宿先を突き止めたいというよりも、もう少しの時間あの場所に居たい、という感情だった。
再び松庵北町へ歩き出す。またもや松庵文庫の前を通り過ぎた。

 

 

さきほどの場所へ戻ると、別の家の女性が道を掃除している。怪しすぎる来訪者は話しかけてみた。女性は快く話を聞いてくれた。まぁ、福岡から? と。うちが引っ越してきたのはそんなに昔ではないから、ここの方に聞くといいとか、このお宅は古いアパートをされているとか、周りの家のことを知りうる限り教えてくれた。

そして「○△×」という番地があの家だけを指すのではなくこの一帯がそうだという情報を得た。そうか! であれば、あの古い空き家の可能性がますます高くなる。

女性はその後、近くのアパートの管理人をされている方にも話を通してくれた。もう一度お会いできたらまたお礼を言いたい。いい人はいるものだ。

アパートの方の話では、当時はまだこのアパートはできていなかったとのことだった。この辺り何もなかったわよ、木ばっかりでと。確かに父の写真の窓の外は木が生えている。

「ありがとうございました」私は帰途についた。

 

 

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後日、母と叔父に父のことを聞いた。

大学時代の教授の名前、お世話になった大学の先輩のこと。大学か古本屋ばかり行っていたこと。下宿先の家主の名前もわかった。そして下宿先の小さい子どもに「モリシタくん、モリシタくん」「モリシタくんのとこ(地元)はでんしゃはとおってるの?」と慕われていたこと。浪人時代から大学時代、博士課程修了までの10数年、引っ越さずずっと下宿生活だったこと。

 

当時何度か下宿先に行ったことがあり、引っ越しの荷造りもしてくれた叔父に下宿先の特徴を尋ねた。

 

「四角い建物で、二階建てで。あんまり大きくなくてね。玄関はちょっとあって」
あの空き家、土地の買い手が見つかったのであれば間もなく取り壊されるのかもしれない。

「ふと思い立った」のは、見られなくなる前に呼ばれたのかな、なんて気もしている。

 

 

おわり

 

 

 

後日談